集落アーキテクトという考え方|静原・森田一弥さん事務所訪問記

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みなさん、こんにちは。
大阪・岸和田、南大阪、和歌山を拠点に『住まいに愛着を』をコンセプトに活動している I Live|田辺弘幸建築設計事務所の田辺です。


昨日、JIA近畿支部青年委員会の機会で、京都市北部の小さな集落「静原」を拠点に活動されている森田一弥さんの事務所を訪問させていただきました。
事務所、お家、そして民泊(宿)まで。三つの場所を見せていただく中で、設計の話にとどまらず、「場のつくり方」や「続け方」まで、ヒントをたくさん持ち帰りました。

この訪問で森田さんがご自身の姿勢として話されていた言葉が、強く残っています。
それが「集落アーキテクト」という考え方です。






静原へ。集落の時間と距離感


静原は、京都の中心部から車で約30分ほどの山あいにある、人口350人ほどの集落です。少し離れただけなのに、昔ながらの集落の風景が残っていて、屋根に雪が積もっていたこともあり、まるで別世界のように感じました。


森田さんは2007年にこの集落へ移住され、建築設計事務所を営みながら、ここでの暮らしを続けておられます。この場所で建築を続けるということ自体が、すでに一つの選択であり、姿勢なのだと思いました。


森田さんによると、移住のきっかけは、スペインへ1年間留学する際に仕事の荷物を置く場所が必要になり、物件を探していたときに、たまたま静原で見つけたことだったそうです。こうした偶然を暮らしとして引き受け、仕事へとつなげていくところに、森田さんの語る「集落アーキテクト」という考え方の入口があるように感じました。



「集落アーキテクト」という姿勢


森田さんがご自身の姿勢として話されていた「集落アーキテクト」という言葉は、肩書きというより、暮らしと設計を切り離さないという考え方だと受け取りました。


設計が先にあって暮らしを当てはめるのではなく、まずこの場所での暮らしがあり、日々の営みがあり、その延長として建築が立ち上がってくる。建築は“作品”として完結させるものというより、暮らしの中で必要になったところに、必要な分だけ手を入れていくもの——そんな捉え方です。


森田さんの話の根っこにあったのは、「小さなコミュニティ×限られた資本」という前提でした。
この条件の中で建築家として価値を出すには、図面を描くだけでは足りない場面がある。だからこそ、必要なら施工まで手掛けてクオリティを担保し、さらには運営にまで関与していく。

設計=図面で完結ではなく、現場で考えながらつくる。森田さんの事務所・住まい・民泊には、その考え方が通底していました。




事務所で感じたこと:集落に“ひらく”仕事場


森田さんの事務所は、古い車庫をリノベーションした空間でした。
印象的なのは、とても開放的なこと。西陽が強い本棚の面以外は大きな窓が設けられていて、集落から事務所の様子がよく見える。逆にこちらからも、集落の気配が自然に入ってきます。

この「見える/見られる」関係が、静原ではすごく大事なんだと思いました。


複数棟を移動する際にも、集落のおじいちゃん、おばあちゃんと自然に声を掛け合う。わざわざ「交流の場」をつくらなくても、日々の移動の中に挨拶や会話が組み込まれている。そのやり取りの積み重ねが、集落の信頼や関係の土台になる。都市部だと見過ごしがちなこの“挨拶の密度”が、ここでは暮らしのインフラになっているように感じました。




事務所の中には机や本、そして模型。大きな窓越しに、手元の様子までよく見えます。
森田さんは「外から来た人が、ここで何をしているのかが分かることが大切」と話されていました。確かに、集落の中で仕事をする以上、閉じた箱の中で完結するよりも、“何をしている場所か”が伝わっているほうが、関係はつながりやすい。


とはいえ、正直「見えすぎる」くらいに感じる瞬間もありました。
ただ、その“見えすぎ”が成り立っていること自体が、この集落の距離感や信頼のあり方を示しているのだと思います。こちらが勝手に境界線を引くのではなく、まずは開いておく。その上で、日々の挨拶や会話の積み重ねで関係がつくられていく。仕事場のつくり方ひとつにも、静原という場所のリアルが表れていました。


そして、その“ひらき方”を、空間のもう一つの主役——薪ストーブのまわりでも感じました。




熱を設計する:日干しレンガと薪ストーブ


事務所で特に印象的だったのが、薪ストーブの周りに積まれた 日干しレンガ です。
森田さんは「日干しレンガは蓄熱するので、輻射熱でとても暖かい」と話されていました。空気を温めるというより、壁や床、身体そのものがじんわり温まる感じ。熱が“その場に留まる”ことで、居場所の質が変わっていく。ここは実際に体感できてよかった点です。


そして日干しレンガの魅力は、温熱性能だけではありません。
むしろ僕は、その つくり方循環 にこそ、森田さんの考え方が表れていると感じました。

日干しレンガは、素人でも比較的簡単につくれる。


材料も、新しい資材を買ってくるのではなく、たとえば民家の土壁を解体した土を利用できる。つまり、すでにそこにある土を、もう一度“建築の材料”として立ち上げ直すことができる。
そして役目を終えたら砕いて、また土に還る。工業製品のように「つくって、運んで、使って、捨てる」という直線的な流れとは違う、プリミティブで循環する素材です。


「土を使って、土に還る」。


当たり前のようで、現代の建築ではつい遠ざかってしまう感覚です。限られた資本の中でも、手の届く範囲で更新できる。つくることが特別なイベントではなく、暮らしの延長線上に置ける。


日干しレンガは、デザインのための“素材選び”というより、自分たちの手で暮らしを更新できる範囲を広げるための道具のように見えました。


図面で完結しない:現場で考えながらつくる設計


森田さんの話を聞いていて強く残ったのが、「設計=図面で完結させない」という姿勢です。
その背景には、森田さんが左官職人として現場からスタートしていることが、しっかりと根を張っているように感じました。図面が現場に降りていくのではなく、現場で起きていることが、そのまま設計の判断になっていく。設計と施工が分断されず、地続きでつながっている感覚です。


設計情報を最小限にしつつ、現場で組み立てていく。もちろん、図面を描かないという話ではなく、必要な情報を見極めた上で、現場で判断できる余白を残している。
だからこそ、材料、納まり、手順——そこでの判断が、そのまま設計になる。仕上げの美しさだけではなく、「どうつくれるか」「どう納まるか」「どう直せるか」という現場の確かさが、空間の質に直結していました。


そして森田さんは、そのやり方を成立させるために、必要なら施工まで手掛けてクオリティを担保する。
小さなコミュニティの中で、限られた資本の中で価値を出すには、設計と施工の間にズレが生まれにくい仕組みが強い。静原では、その現実に即した方法論が、確かな手触りとして積み上がっているように見えました。


もう一つのキーワードが「材料のストック」です。
調達の論理ではなく、“あるもの”から立ち上げる。材料を買い揃えてから空間を決めるのではなく、手元の資源を起点に組み立てていく。改修領域のネットワークが土台としてあることも含めて、静原という条件にとてもよく噛み合っているように思えました。




森田さんのお家:暮らしの中心に「熱」と「時間」がある


次に見せていただいた森田さんのお家でも、「熱」の扱いが暮らしの中心にありました。
南面の構成、太陽の熱、ストーブ、そして「空気でなく物を温める」という感覚。温熱を設備の話だけで終わらせず、最初から“どう過ごすか”の設計として組み込んでいるのが印象的でした。

また、この地域の民家の定番であった土間やおくどさんを残している点も強く心に残りました。昔の要素をただ懐かしむのではなく、見せるところは見せながら、現代の暮らしに合わせて更新していく。そのバランスがとても自然でした。



さらに面白かったのが、「時間を織り込んだ設計」が家のあちこちに感じられたことです。
断熱も完全に隠してしまうのではなく、たとえば天井の板を少し隙間を空けて貼ることで、奥がうっすら透けて見えるようにする。出来上がりの“完成形”だけを見せるのではなく、つくり方や層を残しておくことで、家が更新され続ける余白が生まれていました。


そして何より良いなと思ったのが、生活となりわいが共存していること。


設計する空間があり、藍染めする空間があり、左官の道具が置いてある場所があり、サーフィンの板もある。暮らしと仕事がきれいに分けられていないのに、雑然としているのではなく、むしろ“この家の輪郭”として成立している。住まいが、単なる器ではなく、日々の営みそのものを受け止める場所になっていました。


ここで感じたのは、モノの「新しい/古い」だけじゃなくて、技術の「新しい/古い」もある、ということでした。新しい素材や便利さが増える一方で、昔から続く技術のほうが、結果として本質的にエコロジーだったり、手触りのある豊かさを連れてくることがある。
そして、時間を感じない空間はどこか退屈に見えてしまう。森田さんの住まいは、完成形をきれいに閉じるのではなく、層や手順がうっすら残っていて、時間が織り込まれている。その感じがとても良かったです。


「なぜ完成したらつまらなくなるんだろう」と考えたとき、プロセスが見えなくなるからなのかもしれない。森田さんがスペインで勤めたエンリック・ミラーレスの建築は、まさにプロセスが見えている。その感覚と、静原で見た“時間を織りなす建築”が、どこかでつながっているように感じました。



民泊で見たこと:運用される「場」をつくる


民泊(宿)の空間を見て、強く感じたのは、建築が“器”で終わっていないことです。
迎え入れる場所のつくり方、新旧の境界の扱い、滞在の居場所のつくり方。どれも「どう使われるか」から逆算されていて、運用の解像度が高いと感じました。

そして何より、宿が集落にとっての“接点”になっていること。


集落の中に「外から人が来る理由」をつくり、そこで関係が生まれる入口になる。集落には人が自然に集まる場が多くあるわけではないからこそ、宿がその役割を少し担っている。理念ではなく、具体の運用として立ち上がっているのが印象的でした。



また、民泊という制度上、年間180日という営業日数の制限があります。
一見すると不利にも思える条件ですが、森田さんはそれを「それ以外の日は、集落の集いの場として使える」と捉えておられました。制限をただの制約として受け取るのではなく、別の使い方や可能性に転換していく。その発想自体が、集落で場をつくる上での強さだと感じました。


設計の面でも、合理性と居心地の両立が徹底されていました。
温熱環境をきちんと整える部分と、そのまま残す部分を明確に分ける。全部を均一に新しくするのではなく、メリハリをつけることで、費用を抑えつつ快適さも確保する。集落の条件と運用を見据えた上での、現実的で気持ちのいい判断が積み重なっていました。



訪問を終えて:暮らしの延長に建築がある



今回の訪問で一番の学びは、森田さんの活動が「設計」よりも先に、暮らしそのものを置いていることでした。
場があり、関係があり、時間があり、熱(エネルギー)がある。その土台の上で必要なだけ設計し、必要なら施工まで手掛けてクオリティを担保する。事務所・住まい・民泊を通して、その組み立て方が一貫していました。


「集落アーキテクト」という言葉は、ただ格好いい肩書きではなく、小さなコミュニティの現実に正面から向き合った先に生まれる、具体的な方法論なんだと思います。


そしてもう一つ、森田さんが投げかけていた問いが、ずっと頭に残っています。


暖房も、薪ではなく電気や灯油が主流になって便利にはなった。でも、薪ストーブの暖かさにはかなわない。
電子レンジで簡単にピザを食べられるようになった。でも、ピザ窯で焼くピザのおいしさには全くかなわない。
コンクリートや新しい素材が次々に生まれ、確かに選択肢は増えたけれど、そのために膨大なエネルギーを使っている。果たしてそれは「進歩」と言えるのか、もしかすると後退している部分もあるのではないか——。


便利さの否定ではなく、「豊かさとは何か」「エネルギーをどう扱うか」という根っこの問い。
その問いがあるからこそ、日干しレンガや土、薪、そして昔からつながる技術を、単なる懐古ではなく“今の方法”として選び直している。できるだけ本質的にエコロジーで、暮らしと地続きの技術で建築をつくっていく。そんな姿勢を強く感じました。


自分の仕事に引き寄せるなら、建築を“つくって終わり”ではなく、
「どう運用され、どう更新され、どう関係が育つか」まで含めて考えること。
そのために、熱・素材・時間・プロセスを、もっと自分の言葉で掴み直したい。そんな宿題をもらった訪問でした。


森田一弥さん、貴重な機会をありがとうございました。


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I Live|田辺弘幸建築設計事務所

田辺 弘幸(たなべ ひろゆき)
昭和56年12月12日生まれ
一級建築士
大阪府岸和田市生まれ


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